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2023.07.25
2024.09.04
コラム

スポーツ施設内などで事故が発生した場合の免責条項の有効性について

スポーツ施設内などで事故が発生した場合の免責条項の有効性 弁護士法人一新総合法律事務所 東京事務所
コラム監修者

一新総合法律事務所 東京事務所

東京弁護士会所属

不動産会社を中心に、不動産オーナー、不動産に関連するサービスを提供する企業のトラブル/法律相談を対応しています。年間1,100件以上(2023年実績)の不動産に関する相談を扱ってきた実績から、不動産分野の各種法律相談や契約書作成等幅広く対応が可能です。


はじめに

本コラムでは、不動産管理の一部であるスポーツ施設等の管理に関して解説を行います。

スポーツ施設の利用規約や競技規則等には、スポーツ時に発生した事故については運営者側が一切の責任を負わないことや、競技者が運営者側に損害賠償請求をしないことを定めるものがあります。

さらに、そのような定めが記載された書面に競技者自身が記名押印をしている場合もあります。

スポーツ事故が発生した場合、スポーツ施設を運営されている方達にとっては、これらの免責条項があることから責任は負わなくて済むものだと思われている方もいるかもしれません。

しかし、このような場合であっても、文字通りスポーツ時の事故について運営者側が一切責任を負わないことにはならない場合もあり得ます。

スポーツは時として大事故に繋がりうるものであり、そのような場合にまで一切責任を負わないこととする定めは法律上無効と判断されるおそれがあるからです。

実際に、過去の裁判例ではほとんどの免責条項が無効と判断されています。

本コラムでは、過去に免責条項を定めていた場合であってもスポーツ施設等の運営者側に責任があると判断された裁判例、逆に免責条項が限定的ではあるものの有効であると判断されたものをそれぞれ紹介したいと思います。

過去の裁判例

自動車レースの予備走行中の事故(一切の責任を免除する免責条項が無効と判断された事例:東京地判平成15年10月29日)
【事案】

本件は、自動車レース前の予備走行で多重事故が発生し、その事故で重傷を負ったレーサーが、レースの主催者等を提訴した事件です。

原告X(40歳、男)は、プロのレーサーとして、自動車レースに出場しました。

スタート前の予備走行が行われましたが、当時は雨天で視界不良であったため、通常であれば時速60kmくらいでゆっくりと先導するところ、当日の先導車は時速150kmまで加速した後、コーナー手前で急に減速したため、数台の車両が衝突事故を起こしました。

それによりXの運転する車両は炎上し、Xは重傷を負いました。

JAF(日本自動車連盟)の公認する自動車レースは、同団体の定める「国内競技規則」に基づいて行われます。

同規則では、競技者は、いかなる理由であっても連盟や所属員らに対していかなる責任も追及しないことと定められていました。

他にも、競技参加にあたり、死亡も含めたあらゆる損害について主催者らに対して損害賠償請求をしないこととする誓約書を提出することを定めており、Xもレースに先立って上記の誓約書に署名・捺印の上、大会組織委員会に提出をしていました。

すなわち、各レーサーは、同誓約書を提出しない限り、ドライバーとして競技会に参加することができなかったのです。

【裁判所の判断】

このような状況を踏まえ、裁判所は以下の通りの理由を示して誓約書の効力を無効であると判断しました。

本件では、レース主催者らは自動車レースによって経済的な利益を取得しながら、一方でレースに参加するドライバーに対して上記内容の誓約書の差入れを義務付けていることになります。

自動車レースはドライバーがいなくては興行として成立しないにもかかわらず、同誓約書の効力を文字どおり認めた場合には、主催者は、ドライバーの安全への配慮を故意(わざと)又は過失(通常注意をしなければいけない点も怠った)の結果、重大な結果を伴う事故が生じた場合でも、経済的利益は取得しつつ、一切責任は負わないという結果を容認することになり、これが著しく不当、不公平であることは明らかであると判断されました。

本件の誓約書は、競技者にとってはこれを提出しないとレースに参加することができないものですから、主催者側の責任の一切を免除することに同意せざるを得ないものであり、競技者のレースへの参加の自由を不当に制約するものです。

したがって、本件誓約書のうち、主催者らの故意・過失にかかわらず損害賠償を請求できないとの部分は、レース参加希望者に一方的に不利益を課すものであり、無効というべきであると判断されました。

【主催者側の反論】

レースの主催者側は、本件の誓約書に関連して、レース参加者の自己責任を強調し、競技者は事故などを原因とする請求権を事前に放棄したと主張していました。

たしかに、自動車レースは、参加するドライバーの生命・身体に対する危険を伴うことは明らかですから、同誓約書を提出して参加するドライバーは、このような危険自体は承知しているものと裁判でも判断されています。

しかし、このような危険を承知で上記の誓約書を提出してレースに参加するドライバーは、主催者らのコース設定や先導車による適切な先導、適時適切な消火救護等をしてもらうことを前提に、主催者にとっては防ぎようがなかった事故の発生に限って自己責任を認識しているにすぎないというべきであって、これを超えて、主催者らの故意・過失に基づいて発生した事故についてまでレースに参加するドライバーが損害賠償請求権を放棄する意思を有しているとみなしているとする主催者側の主張は認められませんでした。

スキューバダイビング中の事故(免責条項が認められなかった事例:東京地判平成13年6月20日)
【事案】

次に、スキューバダイビング中の事故において、スキューバダイビングの講習会を主催した会社や講師に対して損害賠償請求を認めた以下の裁判例も参考になります。

この事案では、事前に、「私は…(中略)…私自身に生ずる可能性のある傷害その他の損害の全てについて、私自身が責任を負うものであることを了承した上で、コースを実施することを希望します。私は…(中略)…傷害、死亡、その他の損害が結果として生じた場合であっても(インストラクター、ダイビングストアー及びパディが、)いかなる結果に関しても責任を負わないことに同意し、…(中略)…いかなる傷害その他の損害についても、予測可能な損害であるか否かにかかわらず、その責任の全てを私が個人的に負うことに同意します。…(中略)…この文書は、発生しうる個人的傷害、財産の損害、あるいは過失によって生じた事故による死亡を含むあらゆる損害賠償責任から(インストラクター、ストアー及びパディを)免除し、請求権を放棄することを目的とした(競技者の)意思に基づくものです。」との記載がある同意書が存在していました。

【裁判所の判断】

裁判所は、「スキューバダイビングは、一つ間違えば直ちに生命に関わる危険のあるスポーツであり、水中で行われる講習においてもこれと同様の危険があることは容易に理解できるところである。」として競技の性質を踏まえた上で、また、講習会の講師はスキューバダイビングの知識と経験を有しているのに対し、受講生はそのような知識や経験に乏しいのが通常で、対価を得て講習をする以上は受講生の安全を確保することは当然と判断しています。

このような観点から、一切の責任追求を予め放棄するという内容の上記の免責条項は、主催者側に一方的に有利なもので、主催者側の故意、過失に関わりなく一切の請求権を予め放棄するという内容の免責条項は、少なくともその限度で公序良俗に反し、無効であるといわざるを得ない、とされています。

(結果として、スキューバダイビング講習会の主催会社らに2億円近くの賠償金の支払いを命じています。)

このように、一律に免責条項を定めるだけでは足りず、スポーツの性質や講習の内容などによって状況に応じた安全性を常に確保しておく必要があります。

スイミング施設(免責条項が限定的に適用されるとしたが結果として施設側の責任が認められた事例:東京地判平成9年2月13日)
【事案】

本件は、スポーツクラブ内のスイミング施設内で床に溜まった水に足を滑らせ怪我を負った利用者からの請求を認めたものになります。

この事案では、スポーツクラブを運営・管理をしていた運営者側が、スポーツクラブの入会申込希望者に対し、入会申込書類と共に会則を交付していました。

会則には、「本クラブ利用に際して、会員本人または第三者に生じた人的・物的事故については、会社側に重過失のある場合を除き、会社は一切損害賠償の責を負わないものとする。」旨の規定が定められていました。

また、入会申込者が入会する際に提出する入会申込書には、「私は、…(中略)…別紙クラブ会則…(中略)…を承認の上、入会を申込みます。」と不動文字で印刷されており、利用者がスポーツクラブに入会する際に提出した入会申込書にも上記の記載がありました。

【裁判所の判断】

結果的に裁判所は会員側の請求を認めています。

そこで、会則について以下の通りの判断を示しています。

本件の会則について、いわゆる「一般的」な入会申込者又は会員にとって予測可能な内容のものとしては、スポーツ活動には危険が伴い、会員自ら健康管理に気をつけながら、体調不良のときには参加しないようにすべきであり、スポーツ施設には現金・貴重品を持ち込まないようにすべきであるので、会員が本件施設に現金、貴重品を持ち込んだ結果、身体に不調を来し、あるいは盗難事故に遭ったときには、スポーツクラブ側に非がない限り、スポーツクラブには責任がないものと考えることができます。

すなわち、本件の会則は、スポーツ施設を利用する者の自己責任と考えられることにより事故が発生しても、スポーツクラブ側に故意又は重過失のある場合を除き、スポーツクラブ側には責任がないことを確認するものと考えられています。

裁判所は、①会員規約の内容が一義的に定まっていないときは、平均的な会員が合理的に理解する意味内容に定めるべきであり、②一義的に定まっているときも、内容が不合理であれば無効となる、との理論を示したのです。

なお、これは、あくまでスポーツクラブの設置や保存に問題がないことが前提です。

もともとスポーツクラブの設置又は保存に問題があって事故が発生した場合のスポーツクラブ側の損害賠償責任は、スポーツ施設を利用する者の自己責任と考えるべきではなく、本件規定の対象外であることが明らかであるといわなければならない、として今回の事故については会則の免責条項の適用外であると判断しています。

最後に

スポーツ施設の免責条項は、運営者側が決めるものであり、利用者側がその内容に異議を唱えるようなことは少ないと思います。

このように、一般的に規約等については運営者側が一方的に定め、利用者はそれに従わざるを得ない場合が多いと思われます。

さらに、スポーツ施設を運用する側にとっては、競技者に施設を利用してもらうことによって経済的利益をあげていることもあり、それにもかかわらず免責条項により一切の責任を免れるということはやはり難しいものと考えられるでしょう。

すでにスポーツ事故が発生してしまったという方は、上記の裁判例等を踏まえ、どのように法律問題を解決するべきか、一新総合法律事務所 東京事務所にご相談ください。

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